地域活性化の成功事例から学ぶ魅力的な観光をするには

現代には感染症の蔓延や円高など様々な社会問題があります。その中で、ただ旅行に行くだけでなく仕事をする場所として、人口の少ない地方の地域が注目されています。
今後も多くの人が地方を訪問して、移り住むことで地域の活性化にも繋がると考えられます。しかし地方に人が集まるためには、いくつかの課題があります。地方が本当の意味で「人が集まる」場所にするために、どのようなことが必要でしょうか。
地域活性が注目される理由

地方の地域活性が注目される理由としては、日本の人口減少に伴う都市部への人口集中化や、高齢社会による地方の過疎化が挙げられます。若い人の多くが居住地として都市部を選ぶようになると、地方に残るのは必然的に高齢者が多くなっていきます。
国土交通政策研究所が平成26年に発表した「地域消滅時代を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について」という資料によると、896の市町村が、2040年までに消える可能性がある「消滅可能性都市」であるとしています。
今後日本の人口が増えることは期待できないため、「数の力」で日本を活性化させるための活路を見出すのは難しいでしょう。それでも、地方を過疎化させていくままにするのではなく多くの人に地方の魅力を伝えて目を向けさせ、足を運んでもらうことは可能です。
働き改革が行われはじめた今だからこそ、改めて過疎化が進む地域の活性に注目し、長期的に有力な手段を打ち出していく必要があるのです。
■参考記事:国土交通政策研究所「地域消滅時代を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について」
地域活性化に必要な要素
有力な手段といっても、どのようなことを行う必要があるのでしょうか。まずは地域活性化に必要な、3つの要素についてそれぞれ解説していきます。
- インフラの整備
- 利益の増加
- 地域の魅力をアピール
インフラの整備
地域活性化には欠かせない最初の要素は、インフラの整備です。これはいわゆる「住みやすさ」や「利便性」だけでなく、外から見た地域のイメージ、「訪れやすさ」にも深く関係してきます。
バブル期に人口が集中し多くの住宅が建ったある村は、コロナ禍においてリモートワークができるエリアとして注目されています。
しかし「水道などのインフラが整備されていない」「道路の状態が悪い」「いつ管理が行き届かなくなるか不安」といった理由で難色を示す人が多いのが現実です。
観光地として活性化するためには交通のインフラも欠かせません。道路の整備だけでなく地域内外をつなぐ空港や鉄道、交通の拠点となるサービスエリア、貿易のための港湾の整備なども重要です。
利益の増加
地域が活性化するためには、その地域が「お金を生み出し続ける場所」である必要があります。そしてそれは一時的なものではなく、長期的なものであるべきです。
例えば、より多くの人に観光で訪れてもらうためには、地域の「ブランド化」が重要だとされています。ブランド化といっても高級感を出すのではなく、その地域にしかない強みを出していくことです。
とりわけ観光業において地域のブランド化を推し進めるためには、地域の人々と地元の企業が連携していく必要があります。
地域の魅力をアピール
人に来てもらうためには、その地域が持つ魅力をさまざまな方法で広めていく必要があります。とりわけ現代において若年層に地域の魅力を訴えるには、YouTube・Twitter・Instagramなどのソーシャルメディアをフル活用することが必須となっています。
実際のところ、すでにSNSを活用して地域活性化を推し進めている地域はいくつもあります。たとえば和歌山県は「観光・子育て支援・市議会」という3つの自治体が運営するInstagramアカウントを駆使して、地元の魅力を伝えようと努力しています(※1)。
また、有名な温泉地である有馬温泉や道後温泉も参加している「温泉むすめプロジェクト」には、そこまで知名度が高くない地方の温泉地も参加しています。それぞれの地域ごとに存在するキャラクターと連動したイベントを、SNS担当と連携しながら定期的に開催しています。
このように、過疎化が進む地域の魅力をアピールするためには単純に「ホームページを開設し見てもらう」というような従来の受動的なやり方ではなく、より「現代的」で能動的なアプローチを継続していく必要があります。
■参考記事:
観光で地域活性化するための課題
観光業は地域活性化に欠かせませんが、今よりももっと地域に根づいた観光業を営んでいくために、どのようなことが必要なのでしょうか。ポイントとなる次の点についてそれぞれ解説していきます。
- 地域に合ったビジネスモデルの作成
- 地域資源の発掘
地域に合ったビジネスモデルの作成
地域活性化のために地域の人間と企業は密接に関わっていく必要がありますが、都市部で成立するビジネスモデルが、人口の少ない地域で成立するとは限りません。そこで必要なのが、その地域に適合したビジネスモデルです。
地域で新たなビジネスが生まれると、新たな雇用も生まれます。雇用が生まれると若年層も町に集まってくるようになり、さらに新たな人材育成が可能となります。そのような良いサイクルを生み出せるビジネスの拠点となるように、自治体はさらなる支援体制を整えていく必要があるでしょう。
地域資源の発掘
地方での起業を考える場合、その地域特有の工業製品や文化財、水産物などの「地域資源」と呼ばれているものを活用して新しい商品やサービスを展開できます。今までは地元の人しか知らなかったような地域資源も、実は新たなビジネスの宝庫であるかもしれません。
地方で企業しようと考えている人は、「地方創生」という国が行っている取り組みを知っておく必要があります。たとえば、スタートアップ企業が工業製品や水産物などの地域資源を活用して新たなビジネスを始める場合、「地方創生推進交付金」などの援助を受けられる場合があります。
■参考記事:地方創生推進交付金
観光で地域活性化に成功した事例

次は、観光業で地域活性化に成功した4つの実例をそれぞれ解説していきます。
- 民泊事例
- 道の駅
- 田んぼアート
- パ酒ポート
民泊事例
2018年6月から「住宅宿泊事業法」が施行されたことで、宿泊業を営んでいなくても民間で住宅を提供して、収益を上げられるようになりました。
民泊を地域活性化に取り入れた一例として、長野県観光機構は海外製民泊アプリの「Airbnb」を運営する「Airbnb Japan」と協業して、空き家という地域資源を民泊施設として活用し、多くの旅行者に訪れてもらうプロジェクトを行っています。
このプロジェクトは単に「観光者を増やす」という目的ではなく、都市部に住む人たちが第二の故郷として「帰ってきやすい田舎」を目指しています。
■参考記事:「Airbnb Japan」
道の駅
国は、旅行の拠点として機能する「道の駅」による地域活性化に力を入れています。
中でも全国モデルとして認定されている岩手県遠野市の道の駅では、遠野市の地酒や遠野そばなどの名産品が豊富に取り揃えられており、お土産を買うために道の駅に立ち寄るだけでほとんどの名産品を購入できます。
また道の駅構内にはサンルームや展望デッキが完備されており、名物であるバケツジンギスカンを食べたり、広大な田園風景や猿ヶ石川を眺めながらくつろぐこともできます。
■参考記事:岩手県遠野市の道の駅
田んぼアート
約8,000人が住む「田舎館村」では、地域の半数が田園であることを活かした「田んぼアート」により、年間で数十万人が訪れる観光地へと成長しました。
田舎館村は1990年代から観光地として多くの人に来てもらおうと様々な取り組みをしてきましたが、そもそも「田んぼしかない」ような村であったため、人を呼び入れるための起爆剤となる「何か」が必要でした。
そこで同村は、村民の協力も得ながら広大な田園を活かして、本格的に「田んぼに絵を描く」取り組みを2000年代からはじめました。その結果、日本国内だけでなく海外からも注目され、観光客が倍増しました。
ちなみに田んぼアートは、遠野市の公式ウェブサイトからライブ映像で鑑賞することもできます。
■参考記事:田んぼアート
パ酒ポート
消費量とともに生産量も減少傾向にあるお酒で地域を活性化させる「パ酒ポート」プロジェクトを行っているのが北海道です。パ酒ポートには道内にある28箇所の酒蔵が記載されており、スタンプラリー感覚で各地の酒蔵を回ってお酒を楽しむことができます。
以前は小冊子タイプでしたが、現在は「オンラインパ酒ポート」という形式でSNSと連動した企画も開催しています。2022年11月からは、Instagram上で「パ酒ポートおつまみ」というハッシュタグを付けて、道産酒とつまみになる料理の写真をセットで投稿すると「酒のアテ投稿グランプリ」に参加できます。
選考の結果入選すると道産酒が最高6本までプレゼントされる当企画は、地元のホクレン農業協同組合と北海道広域道産酒協議会が連携して開催しています。参加者は美味しいお酒を楽しめるだけでなく体験を他の人とシェアできるという、まさに現代ならではの地域活性化プロジェクトです。
■参考記事:オンラインパ酒ポート
観光で地域活性化を成功させるためには

観光で地域活性化を行った実例を紹介しましたが、「ただ行なう」だけでなく創意工夫が必要であることを実感できます。
そこで最後は、観光で地域活性化を成功させるためにどのような点が重要なのか、以下3つのポイントについて解説していきます。
- 地域資源を活かす
- 多くの人に協力してもらう
- 持続可能なモデルを構築する
地域資源を活かす
地元の人から人気の高い農水産品や工業品があるとしても、単にその地域だけのものにとどまっている場合が多く、一歩外に出てみると「名前も聞いたことがない」と言われるような地域資源は多いです。
一見観光には結びつかない広大な田園が「田んぼアート」として集客のきっかけとなったように、地域活性化に活用できそうな地域資源を発掘し、地域に根付いた地域資源の活かし方を編み出していく必要があります。
多くの人に協力してもらう
地域活性化および後継者を増やすためにはもはや足元だけを見るのではなく、インターネットを活用して日本中に発信していくべきです。
しかし高齢化が進む地域ではインターネットを活用して情報を広められる人が少ない場合が多いため、地元の高齢者と若い人達、いわば「これから地域を背負っていく人」が協力して行っていく必要があります。
現代においてSNSはとりわけ地域活性化に有効な手段なので、可能な限り活用したいところです。周りの人だけでなく、強い情報発信力を持つ若年層も巻き込んでいけるモデル構築を行なうべきです。
持続可能なモデルを構築する
一時的に話題になり観光客が殺到するようなことがあっても、一過性の話題は長期化できずにすぐ忘れられてしまいます。そこで重要なのは、地域住民の誰もが置いてきぼりにならず、長期にわたって利益を生み出し続けられる持続可能なモデルを構築することです。
例えば、今までは一つの学校、一つの会社だけが主体となり行っていた振興プロジェクトの輪を、地域全体に広げられます。地域住民が一体となってプロジェクトに参加することで、埋もれていた地域資源を見つけられたり、地域外にも活動を広げやすくなります。
また地域活性化には「DX化」も重要です。5GやAI、ブロックチェーンなどの最新テクノロジーを、自治体と地元の企業が連携し、積極的に観光業や地域支援のシステムに取り入れていくことが求められています。
まとめ

地域資源をフル活用した地域活性化は、人の流れやお金を生み出すだけではありません。時代の流れで失われつつある工業や伝統を若い人へと伝承し、新しい時代へとつなげていくことにも寄与します。
SNSを活用して地域活性化が成功したいくつもの事例や、地域活性化のために企業が国から支援が受けられるという事実は、この分野にはまだまだ多くの伸びしろがあることを示しています。
「誰か」ではなく住民全員が主体となって過疎化が進む地域の活性化に取り組んでいくなら、日本全体が活気のある町に戻る未来も、そう遠くないかもしれません。